歳時記は語る
●睦  月●
歳時記タイトル
 正月が終わり仕事や学校が始まったのに、今度は小正月。正月の松飾りや注連(しめ)飾りを燃やしたり、雪のお堂で甘酒を飲んだりと、楽しい行事が続くが、これが本来の年の始まりだった。小正月の諸行事には1年の幸福を祈る気持ちが満ちあふれている。


繭玉(団子木)の飾り付けは、田植え歌を歌いながら行われる(新潟県山古志村)

もぐら追い(新潟県山古志村)。横づちを引きずりながら、もぐらを家の周りから追い出す
 小正月は昔の人が十五夜の日を正月と定めていたころの名残りで、正月が1日に移った今も15日に再び正月行事を行っているのだと考えられています。小正月には不思議な力があり、人々は祖霊を呼び、1年間の幸せのためにいろいろなまじないをします。小正月の餅(もち)をつくころは寒九(寒に入って9日目)の時期で、1年で一番水がいいときなので寒九の水は酒や味噌に使うと体によいといわれており、冬期限定の酒もたくさん発売されます。
 正月の門松に対して小正月には繭玉(まゆだま)(団子木ともいう)が飾られます。神様の降臨の目印となる門松に対し、繭玉は豊作を祈る魔法の木になります。そのため、繭玉 を飾り付けるときに田植え歌を歌ったりします。
 富山県魚津市小川寺では小正月を田植え正月と呼び、ヌルデの若木で祝い箸(はし)や農具のミニチュアを作り、大鍋で煮る粥(かゆ)を田に見立て、ヌルデの農具を用いて田打ちなどの田の作業を模倣し、米の粉団子を稲株に見立てて田植え歌を歌いながら大鍋の粥の中に植え込みます。この粥を神棚に供えて一同で食し、あたかも豊作になったように祝います。このようにこれから起こることを想像して、あらかじめ祝うことを「予祝」といいます。
 小正月には、鳥追いやもぐら追いなど、農作を妨害するものをあらかじめ追っておいたり、柿の木に鉈(なた)で傷をつけ、「成るか成らんか成らんと切るぞ」と脅し、「成ります成ります」と返事をさせて朝の行事で食べる粥を食べさせる(かける)成り木責めという行事もあります。これらの行事は1年間、良い生活が送れるようにという、おまじないなのです。
 新年に神社で浄火をたくように、小正月には塞(さい)の神、または左義長(さぎちょう)と呼ばれる大きな火をたく行事があります。この行事は予祝とは違った意味があるようです。富山県入善上野邑(にゅうぜんうわのむら)町の塞の神では大工の親方が作った男女2体のデク人形を焼いて邪気や厄を祓(はら)います。行事に参加するのは小学校の男子で、6年生が親方になり首からデク人形を下げます。集落を回り、ワラ束、米、豆、正月飾りを集めます。デク人形は竹とワラで作った三角の塔の中心に安置され、左義長の火で焼かれます。
 新潟県ではこの行事は塞の神、ドウロクジンなどといい、新潟県内各地で男女2体の神様がワラや雪で出来たドウの中に祀(まつ)られて燃やされます。この神様はジジババと呼ばれていたりします。おじいさんおばあさんは一番身近な祖先ですから、この行事には祖先を讃(たた)える意味があるようです。
 石川県輪島市の輪島前神社と重蔵神社では面様年頭(めんさまねんとう)といって、神社の古面をつけた小学生2人が町内の家々をお祓いして回る行事があります。季節の境目に客人神がやって来るお話は先月しましたね。この面様は客人(まろうど)神のようですが、祖霊という感じもします。
 わたしたちの快適な生活は昔の人々の辛苦があってこそ成り立っているのかもしれません。今年は新しい世紀の初めての小正月になりますが、新世紀といっても過去に感謝しながら幸せを祈りたいものですね

新潟県民俗学会常任理事 高橋郁子


新潟県山古志村中野の塞の神。
雪で作った男女の御神体は、そのまま燃やされる


富山県入善町の「塞の神」。左義長に火がかけられると、「塞の神じゃ、大神じゃ」と子供らは歌う


石川県輪島市の面様年頭。奇怪な男女の面をかぶった2人の子供は榊(さかき)で玄関を激しくたたいて家に入り、神棚に立礼し、お布施をもらう